Coffee Break Essay



  『オヤジギャグ』



自宅の近所に品田さんというお宅がある。
この表札を目にするたびに、もうひとつ口があったら、「田田」になるなと思いながら家の前を通る。
ちょっと離れたところには田口さんもいる。
マジックペンでちょっとイタズラしたら、こちらも同じ。
不謹慎な話で誠に申し訳ない。でもこういうのが好きなのである。

驚くなかれ近くには、出口さんも御手洗(みたらい)さんもいる。
出口さんちの入口には出口と書いてあるとか、
御手洗さんの家が公園にでも面していたら、面白いだろうなど考えニヤリとする。
イニシャルで現せば、WCである。
さすがに入口さんや勝手口さんという名前は聞いたことがない。
心外とお叱りを受けても致し方ないのだが、表札を見ながら歩くのが楽しみのひとつである。

近藤さんの隣が遠藤さんだったら面白いし、
近藤家・遠藤家披露宴会場なんていう看板も見てみたい。
小池ケイコさんは、上から読んでも下から読んでもコイケケイコなのである。
だから、ケイコさんは小池くんと結婚すると便利である。
小池くんもケイコさんも会社にいる。冗談じゃないわよ! と怒る顔が目に浮かぶ。

ちなみに妻はケイコなのだが珍しく「建子」と書く。私は「健」である。
字面だけは似た者夫婦である。
調子に乗って言えば、日本橋高島屋のすぐ隣に「こんどう軒」なるラーメン屋がある。
初めてこの看板を目にしたときには、興奮し思わず入ってしまった。
ご主人に名刺を渡して「実は私、近藤健なんです」と言いたくなったが、
忙しそうで言いそびれた。
ドンブリにもレンゲにも「こんどう軒」と名前が入っており、
願わくは四セットくらい譲ってもらいたいと思っているが、いまだに果たしていない。

私が本屋を開くのなら「ケンコン堂」にしようかと思う。
ちょっとひねって「コンケン堂」がいいかも知れない。
最近東京でよく見かける関西系の大手書店に、ジュンク堂というのがあるが、
工藤淳という創業者の父親の名前をモジったらしい。
私が何かの講師でもやることになったら、それこそ大変。
「講師近藤」ならぬ「公私混同」である。

久保くんの口癖は、「ボク、クボ」であった。
「大輔、大好き!」などと言っている女の子もいた。
中学時代、英語の先生が初めての授業で「マイ ネーム イズ ソルト アンド シュガー」と言いながら、
黒板に佐藤敏夫と書いた。
佐藤さんが砂糖なら、武藤さんは無糖、ブラックと言うところか。
ちなみに缶コーヒーに「微糖」(尾藤さん)というのもある。

イングリッシュ・ネームでは、遠藤さんはジ・エンド、安藤さんはアンド。
女の子の名前では、A子、I子、K子、T(禎)子、U子さんと結構ある。
男ではこうはすっきり行かない。
栄一クンはA1(ワン)とかユウジクンはUZくらいしか思い浮かばない。
圭クンや優クンもいるが、面白味に欠ける。

最近、こんなことばかり考えながら歩いている。いわゆるオヤジギャグである。
自分では最高に面白いと思っているのだが、周りにはウケていないようだ。
「尾も白いから面白い」、「この塀カッコイイよな」「へー」、これこそくだらないオヤジギャグではないか。
が、そう大差はないようだ。

ウケないのだが、くだらな過ぎて笑ってしまう、それがおやじギャグの真髄。
「会社に勤めて三十年、頑張って来たが、金属(勤続)疲労」。
「年末調整、もうそんな時季か。大切な不用(扶養)家族」。
「ちゃんとやってる? 嫁さんと。愛は子宮(地球)を救う」。
「まあー、素晴らしいステーキ」、次第にボロが出てくる。
こんな感じである。酒が入るとさらにパワーは全開となる。

今年四十三歳になった。まだ若いつもりでいる。
だから若者の会話の中に入って、ドッと笑わせ「なかなかやるジャン」と思わせたいのだ。
でも相手を「若者」と意識した時点で勝負はついている。ズレているのだ。

外見もズレて来ている。
誰もがロマンス・グレイの魅力的な紳士になるならいいが、
大半の男は徐々に薄くなって、ついにはハゲる。
往生ぎわの悪いヤツはバーコードになってまで頑張っている。

要は、男の賞味期限というか有効期限が切れているのである。
それでも、若い女の子には楽しい人、面白い人と思われたいのだ。

悲しい男のサガである。

                     平成十五年四月   小 山 次 男